可愛いキノコの発見から、自然界の不思議に思いを馳せる

7月に入り待ちに待っていた雨が降り出した。この雨が2月末頃までは続くはずであり、その間は植物の水やりから開放される。南国はまさしく地球上の楽園であり、夜に激しい雨が降るが太陽が出て温度が上がり始めると雨も止んでしまう。恵まれた自然環境に感謝しなくてはいけない。
ある雨降りの朝に園内を歩いていると、一斉に芽を出した白い可愛いキノコを発見した。昨日は気付かなかった突然の出現に、不思議な光景を見る思いで眺めていた。可愛いキノコたちは一斉に「おはよう」と挨拶している感じだが、どれも可愛いお嬢さん達に見えてくる。私が植え付けたのではないキノコたちを飽きることなく眺めながら、「君達は何処から来たの」「どうして同じ日に一斉に芽をだしたりするの」と問いかけながら、土の中で私どもには分からない営みがされ、命がはぐくまれている不思議な世界に興味が湧いてくる。

農家に携わっている人達に「大切なものは何か」と聞けば、おそらく答えは皆同じで「土」と言うに違いありません。しかし、その大切な土が作物にどんな点で役にたっているのか、と聞かれると答えられない人が多いのではないだろうか。農業の中で一番わかりにくいのは土だといわれる所以でもあります。目に見えない土の中には、地球上にあるほとんど全ての元素があり、また、莫大な種類と数の微生物が生存しているといわれています。
園内では毎日のように多くの種類の植物や動物が何らかの原因で死んでいます。ある時、現地の友人から釣りたてのカツオを貰い、一部はカツオ節を作ろうと思いたち茹でた後に乾燥用の網の中に入れ、日なたに置いていました。途中スコールが来たので雨に濡れないよう軒下へ吊るし、翌朝、気になり駆けつけると、カツオが入っていた網が軒下より落とされ、いくつかカツオが食べられていました。猫の仕業であることは明白であるが、自分の注意力を嘆くとともに、最近多くなった野良猫退治をしなくてはいけないとおもいながらしばらく歩いていくと、目の前に野良猫が死んでいるのが目に入りました。園内の警備担当をしている2匹のロッドワイラーという大型犬がカツオを食べていた猫を見つけ、やっつけたのでしよう。「よくやったお勤めごくろうさま」と言い、猫の死体をすぐ土中に埋めてしまいました。今までどれほどの動物の死体を土に埋めたことか。蛙、蛇、ニワトリ、孔雀、イグアナ、ガチョウ、猪、鹿、水牛、ヤギ、ヤシガニ、ネズミ等々。
こうした動物の死体を土の中に埋めても、わずか1ヶ月程でその姿、形は消えてしまい土と化してしまいます。そんな現場を見続けていると、手にとって見ても何も見えない土ではあるが、そこでは想像を超える営みがされていることに興味が湧いてきます。
茶さじ一杯、わずか1グラムの土の中には数百万の微生物が住みついていると言われます。園内のジャングルには大木が朽ちて徐々に土になりかけていくもの、葉っぱや小枝が分解されふかふかした絨毯を踏むような感触の土のところもある。こうした場所は有機物が盛んに分解されている土であり、数知れぬ微生物達の活動の場なのです。さらに土の中にはミミズやクモ、ダニ、ムカデ、ネズミまでもが生息。地下の世界が展開している。全ての地球上の生き物の死体を分解し土に返す役目も担っております。

随分昔になりますが、産まれたばかりの水牛を死なせた悲しい出来事があります。元気に動きまわり私どもを大いに楽しませてくれていた子牛が、徐々に動きが悪くなくなり、異変に気付いた時には、子牛のやわらかい腹を始めとしていたる所にダニが覆っていました。その時まで、まさか土の中にあんなに多くのダニが生息しているとは思ってもいませんでした。
何でもないキノコの出現から、色々なことを考えたり、不思議な自然界に興味をもったりするのも楽しいことです。「自然界は人間を必要としないが、人間は自然がなければ生きられない」と言われます。生きる上で何が大切かを教えてくれているように思います。

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濱本久允

濱本久允

ハマモトガーデンズの開拓者 濱本久允は昭和22年に愛媛県で生まれました。オーナー濱本久允の自然に対する向き合い方や思いを綴ってまいります。