園内には野生化したニワトリが数多く生息しています。警戒心は非常に強くいつでも一定の距離を保ち決して私達に近づいたり、なつくことはありません。そのニワトリがギフトショップの裏にある枯葉から堆肥を作っている場所で卵を抱き、雛を孵そうとしています。
堆肥を移動する作業中の従業員が、その中に卵を抱いているニワトリを発見しました。連絡を受け現場へ行ってみると身動きもしないニワトリがいましたが、堆肥を移動し作業場所の確保が必要だったのでニワトリのまわり1メータの堆肥を残し、それ以外は全て移動しました。それでもニワトリは卵を抱き続けており近づいても逃げる気配もありません。普段は警戒心の非常に強いニワトリですが、こうして一度卵を抱いたり、雛を育てるようになりますと、まるで違う鳥であるかのような印象を受けます。
目の前に身動きもせずに、じっと座っているニワトリを見ながら、警戒を解くことはないのだろうが、子供を育てる、子孫を残すという事に於いては、このように命を張り捨て身の行動に出てきます。そんな行動を見ながら、自分を犠牲にしてまで守っている姿や何者をも恐れない強い意志と忍耐力を目の当たりにすると改めて感動してしまいます。
堆肥を移動した後にはパパイヤ500本の植え付けのために、ニワトリのいるすぐ傍まで種を一つ一ついれた発芽用のポットを所狭しと並べました。このような状況下でニワトリにしてみればこれから何が始まるのか、気がかりなことに違いありません。
パパイヤの発芽には自信があり、毎回100%の確率で苗まで育てています。そのためには、微妙な水やりやビニール張りの管理が必要で、この仕事は誰にも任せられない仕事です。毎日の作業はゆっくりと行なうようにし、出来るだけニワトリの警戒心をほぐすように気を使います。手を出せば届く所まで行き作業をし、毎日顔を合わせています。そんな日々のお付き合いから自然と信頼関係も生まれたようでニワトリが少しずつ警戒心を解いていくのが感じられます。
しかし、ニワトリを取り巻く生活環境を考えて見ると、人間への警戒心は他の外敵と比べれば少ないものではないかと思います。自然界で生き抜くためには数多くの外敵と向き合っていかなくてはなりません。卵を抱き雛が孵るまでの21日間、生まれてからは24時間休む暇もなく命を張って雛を守らなくてはいけません。ニワトリの最も警戒すべき外敵は蛇です。戦後マレーシアより運ばれてきた木材と一緒に入って来たブラウンツリースネークと呼ばれる枯れ枝のような蛇により、グアム中の小鳥が絶滅の危機に陥ったことを思えば、いかに多くの蛇が生息し小鳥やニワトリの外敵であるかが分かります。更にイグアナ、猫、ねずみ、警備担当の2匹の大型犬が居て、とても安心して卵を抱き雛を育てる環境ではありません。そんな中で雌鳥は21日もの間、飲まず食わずで卵を抱き続け、更に雛を守り育てていきます。
ある日、いつものようにニワトリのいる現場へ行ってみますと、座っているニワトリの回りから雛の泣き声が聞こえてきます。雛が孵った感動の一瞬です。近づくと鳴き声はピタと止み何事もなかったように親鳥だけが座っています。多くの外敵が雛を狙っており、雛が産まれた喜びを味わう暇も無く、これからが外敵の集中攻撃から身を守り逃れなくてはいけない戦争の始まりでもあります。雛は次の日にはもう巣から離れていきますが、ニワトリのいなくなった巣の中には卵の殻が6個あり、6羽の雛が孵ったことがわかります。勢いのある元気な泣き声を出し散歩をしている雛は直ぐに見つけることが出来ました。しかし母親に守られて歩いている雛は4羽しかいません。2羽は既に犠牲になったのでしよう。
親鳥が雛を連れ散歩している光景は和やかで平和な気持ちにさせてくれますが、毎日雛が減っていくのを見なくてはいけないのは辛いものです。園内では良く一羽の雛を連れて散歩している光景を見ますが、自分を犠牲にしてでも外敵から雛を守ってやれる限界が一羽ではないのかと思います。やがて今回も雛は1羽に減ってしまいましたが、日に日に大きく成長しています。大きくなっても母親の後を離れずについている光景は色々なことを語りかけてくれ、色々な想像にふけってしまいます。母親に守られ育つ雛の回りに男親の姿は一度も見えない。